昨日、興味本位で表題の見学会に参加してみました。
法政大学市ヶ谷キャンパス前の江戸城外濠で行われている「浚渫工事」について、概要説明と実地見学を行う見学会でした。
この浚渫工事では、外濠(市谷濠、新見附濠、牛込濠)の水質を改善するため、濠内に堆積した土砂の除去を行っており、工事完成予定は令和2年2月頃だそうです。
現在は、ちょうど市ヶ谷キャンパス目の前(牛込濠)でヘドロを吸い上げています。
8月7日 第10回外濠市民塾 外濠浚渫工事見学(外部サイト)
概要
- 日時:令和元年8月7日(水)8:30〜13:00
- 会場:法政大学市ヶ谷キャンパス大内山校舎8階Y804教室
- 定員:40名(事前申込制)
- 主催:外濠市民塾実行委員会(委員長 陣内秀信 法政大学特任教授)
- 配布:配布物は以下の通り
配布物
- プリント『第10回外濠市民塾 外濠浚渫工事見学会 プログラム』
- プリント(周辺図)
- 法政大学江戸東京研究センター[2019]『EToS 2018 vol.2』
- 外濠再生懇談会[2019]『外濠 vision 2036』
- 他に、ボールペン、アクエリアス、塩飴、五洋建設よりタオル。
内容
大内山校舎8階Y804教室
8:30〜8:35 開会・挨拶
8:35〜8:55 浚渫工事の概要説明
8:55〜9:00 見学に関する説明・移動
※以降、4つの班に分かれて見学。
外濠公園(法政大学前)
9:10〜9:30 浚渫状況見学(ポンプ浚渫船)
※班ごとに適宜説明を受けながら圧送管に沿って移動。
10:00〜10:30頃 牛込橋およびラムラ付近
10:45頃まで飯田橋ラムラで時間調整兼休憩
班ごとに神田川沿いを移動
小石川橋付近
11:00〜11:30 浚渫土積込状況見学・浚渫土砂確認
※その後、解散して個別に移動して教室に戻る。
大内山校舎8階Y804教室
12:00〜12:15 浚渫工事に関する質疑応答
12:15〜13:00 振り返りワークショップ(見学グループごと)
13:00 閉会
開会・挨拶・浚渫工事の概要説明
最初に、外濠市民塾実行委員会・委員長の陣内秀信法政大学特任教授より開会のお言葉。
個人的に印象的だったのは「外濠の水を良くしないといけない」という言葉でした。
今回の見学会では「どう土砂を吸って、どこに運んで捨てるか?」のメカニズムを見学できるとの事。
次に、東京都のご担当者様より、外濠浚渫工事の事業概要説明。
外堀通りが東京オリンピックのマラソンコースになるので、牛込〜市谷濠を綺麗にするという事で工事が始まった。
都民ファーストでつくる「新しい東京」 ~2020年に向けた実行プラン~
第2章 「3つのシティ」の実現に向けた政策展開
スマートシティ ~世界に開かれた環境先進都市、国際金融・経済都市・東京~
政策の柱2 快適な都市環境の創出
市谷濠、新見附濠、牛込濠の浚渫工事において想定されているヘドロの量は、約28,000立方メートル(25メートルプール約90杯分相当)程度。
市谷濠、新見附濠と上流から順番に浚渫工事を完了し、現在はいよいよ牛込濠を開始した状況。
弁慶濠は別途、浚渫工事を進めている。
最後に、浚渫工事を行なっている業者のご担当者様より、実際の工事について説明。
今回の浚渫工事において、牛込濠は本年7月10日より開始している。
市谷濠、新見附濠、牛込濠は、それぞれの濠ごとに段差がある。
今回の浚渫工事では吸引圧送式による方法で工事を行なっているが、これは土運船(どうんせん)が外濠の中まで入ってこられないから(外濠は水深が浅い)であり、またヘドロの臭いが広がるのを防ぐ効果もある。
牛込濠での浚渫工事では、重機の先端に取り付けた吸水口からヘドロと水を吸い、空気圧縮で圧送管の中を約1.5キロメートル先の小石川橋付近まで送る。
そこから、土運船に積み替えて、神田川から隅田川へ運び、さらに土砂を積み替えて(処分場は底が開く船でなければ運び込めないが、神田川は水深が浅いため底が開く船は航行不可であるため)新海面処分場まで運ぶ。
新海面処分場は埋立地として現在埋め立て中で、その埋め立てる材料として土砂を利用している。
見学
ここからは、実際に屋外で牛込濠(法政大学前の外濠公園から)、牛込橋、飯田橋ラムラ付近、飯田橋、神田川沿い、小石川橋付近(土運船への積み替え現場)の順に見学しました。
8月という事で、真夏の炎天下でしたので大変でしたが、非常に有意義な見学となりました(主催者側の方々のご尽力に感謝)。
外濠公園(法政大学前)
法政大学市ヶ谷キャンパスの真正面から見学スタート。
外濠の底からヘドロを吸い上げる作業船。
台船は15分割されたものをトラックで陸送して、組み立てて作った。
ショベルは水面下6メートルくらいまで届き、腕の先に吸水口が設置されている。
ショベルの運転席にはカーナビのような機器が設置されており、現在地と作業済みの場所が分かるようになっている。
牛込濠の浚渫工事では、水深2メートルが2.5メートルになるくらいで掘り進めている。
作業船から延びるこの管が圧送管で、この先約1.5キロメートル下流の小石川橋付近まで繋がっています。
作業船から少し離れた岸にあるこの設備は、作業船への給油用設備との事。
余談ですが、外濠公園の土手沿いに打ち込まれているこの杭は、千代田区とJRの管轄の境界線を表す杭だそうです。
牛込橋
法政大学市ヶ谷キャンパス前から飯田橋駅方面に向かい、飯田橋駅手前にかかる牛込橋の上から見学。
牛込橋の下を通過する圧送管。
この圧送管は1本3メートルあたり180キログラムの重量だが、写真の牛込橋下を通す設置作業は人力で圧送管を運んで設置したとの事(設置に苦労があったのではないでしょうか)。
圧送管を浮かせる黄色い台は見た目以上の浮力があり、圧送管を水上に浮かせている。
プラ製の圧送管だと重量は1/3程度との事。
飯田橋ラムラ付近
牛込橋から濠を渡った側を歩き、休憩地点の飯田橋ラムラまで向かいました。
その道中、説明役の学生さんが暑い中、かつて飯田濠があった事などを熱心に説明して下さりました。
かつて、この辺りは飯田濠だったそうですが、現在は飯田橋ラムラというビル等が建っています。
写真では見辛いですが、牛込揚場(水運の荷物を陸上に引き上げる場所)跡です。
休憩地点の飯田橋ラムラの敷地内にひっそりと延命地蔵尊のお姿が。
飯田橋
飯田橋の上から。
飯田濠は消滅したのではなく、実は暗渠(あんきょ)になっていたという事です。
幅7メートル、高さ5メートル程度の暗渠が2つ横並びになっています。
その暗渠の中を圧送管が通っている様子が、飯田橋の上から確認できます。
神田川沿い
飯田橋で外濠は神田川と合流しております。
なお、神田川の水源を訪れた際の記事はこちら。
合流した神田川沿いに圧送管をたどっていきます(水道橋駅方面へ進む)。
写真は神田川を飯田橋方面に向いて撮影。
外濠の水位はほぼ変化しないが、神田川は潮の満ち引きにより水位が変化するとの事。
そのため、引き潮になり水位が下がらないと土運船が神田川に架けられた橋の下を通過できないそう(実は今回、平日の早朝から見学会が行われた理由はこれで、土運船は自由に神田川を往来できないとの事)。
小石川橋手前で、牛込濠から約1.5キロメートル続いた圧送管の終点があり、管の先端をクレーンで持ち上げて、その先端から土運船にヘドロが流れ落ちる仕組み。
なお、場所によって異なるが、ヘドロと水の割合はおおむね1:1程度との事。
余談ですが、神田川の水面にプクプクと泡が上がってきていました。
もしかして水が汚くて発生したメタンガスでしょうか?
小石川橋付近(土運船への積み替え)
水道橋駅手前の小石川橋で見学します。
圧送管と土運船。
なお、ヘドロの処理量は1日あたり100立方メートル程度であり、1日で200立方メートルくらい掘り進むとの事。
圧送管の圧は0.7メガパスカルで、時速30キロメートル程度で吸い上げたヘドロを送ってくるとの事。
噴射されると、すごい勢いで土運船にヘドロと水が噴射されます。
動画だと噴射の音もあり、迫力があります。
最後に、圧送管から噴射されたヘドロを汲み取って下さったので、見物して終了しました。
なお、今日のヘドロはかなり水っぽくさらさらしていて臭いもあまりしませんでしたが、通常だともう少しどろっとしているそうで、臭いもドブ川のような臭いだそうです。
質疑応答・ワークショップ
解散後は当初の教室に戻り、質疑応答。
その後、見学班ごとにワークショップを行いました。
感想
真夏の炎天下でとにかく暑かったですが、非常に楽しく、有意義な見学会でした。
徳川家康公による江戸城改築以来、江戸時代から残る外濠ですから大変興味はありましたが、浚渫工事を行なっている事すら今まで知りませんでした(そもそも「浚渫工事って何?」という理解でした)。
また、かつては玉川上水から市谷濠に繋がっていたそうですが、上智大学のグラウンドが無くなる際に玉川上水との繋がりが断たれてしまったそうで、今では水源がなく、大雨によるオーバーフローで水が流れ込む程度との事なので、いつか再び玉川上水と繋がると良いと思いました。
またこうした見学の機会があれば、学んでみたいと思います。
※主催者側よりSNS等で拡散可とのご案内がありましたので、本記事では座学で映されたスライドの写真を掲載しております。
【追記】玉川上水との接続計画が実現へ
(追記:令和元年8月12日)
令和元年8月10日の讀賣新聞夕刊に、一面記事で以下の記事が掲載されました。
水の都へ 清きお濠に
東京都は、水質悪化が深刻化している皇居(千代田区)の外濠と内濠に、江戸時代に作られた水道「玉川上水」をおよそ半世紀ぶりに接続させ、抜本的な浄化に乗り出す方針を固めた。都は2020年東京五輪・パラリンピック後の都市計画として「水の都構想」を掲げる考えで、その中核事業とする。
都などによると、外濠は神田川のほかに下水道にもつながっており、降雨時には汚水が流れ込む。一方、内濠は水の流れがほとんどなく、環境省の浄化装置があるが効果は不十分で、いずれも夏場には藻や悪臭が発生して問題となっている。
(中略)
そこで都は、玉川上水の活用について検討を開始。既存の水路改修に加え、外濠につながる約2キロの導水管を新設するなどし、中流部からの再生水の流量を増やして外濠に送ることを柱とする計画が固まった。
(中略)
都は、玉川上水の活用と濠の浄化事業を構想の中核に位置づけ、「環境先進都市」としての国際競争力の強化や、さらなる観光振興にもつなげられると期待しており、総事業費として最大で数百億円程度を見込む。20年大会後に事業に着手し、30年代中の完成を目指す。
(以下略)
引用元:讀賣新聞夕刊『水の都へ 清きお濠に』令和元年8月10日
外濠の浚渫工事見学会に参加した際、かつて玉川上水と外濠が接続されていた事を挙げ、再び接続されるといいねという話が出ておりましたが、まさかその数日後に接続計画の確定が報道されるとは思ってもいませんでした。
何という吉報でしょうか。
現在、ご覧の通り外濠の水は緑色に濁っており、周囲の木々と同じくらい緑色一色になっております。
この水が少しでも浄化された水に替わっていくと考えると、10年以上先の完成が今から楽しみで仕方ありません。
内濠と共に、江戸城の美しい濠が復活する日を心待ちにしております。
【関連記事】
江戸城についての記事はこちら。