2019年度秋期スクーリング『経営管理論Ⅱ』の講義を受講中ですので、個人的に興味のある項目を中心にまとめたいと思います。
本科目は春期スク水曜6時限目、経済学部商業学科では専門選択必修科目となっております。
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なお、おおむね授業2回分を1記事にまとめるペースで進めたいと思います。
第3回 近代的管理論Ⅱ(H.A.サイモン)
概要
2019年10月10日(水)6時限目
配布物:以下の通り。
- スライド資料『法政大学「経営管理論Ⅱ」第2回』P.9~P.11
2.バーナードの組織論(続き)
前回の授業で取り扱ったバーナードの近代的管理論について、3つの組織過程を復習(「専門化」「誘因」「コミュニケーション」)し、さらに前回の続きを学習した。
また、授業後半ではサイモンの意思決定論を取り扱った。
「意思決定の理論」の系譜としては、バーナードの理論がサイモンにつがなっていき、今日にも大きな影響を与えている。
(8)組織過程における経営者の役割
バーナードは協働システムにおける“組織過程”を経営者の役割であるとし、以下の3つの組織過程を提示した。
- 「専門化」
- 「誘因」
- 「コミュニケーション」
専門化
専門化とは共通目的の細分化(役割分担)であり、これは共通理念(経営理念・経営哲学)を細分化(部門化・階層化)する過程。
誘因
動機づけの過程であり、協働意欲を引き出す過程。
動機づけのプロセス。
「モチベーションをいかに引き出すか」その上で「組織に対する活動の貢献を引き出すか」。
ICバランス
- 「誘因≧貢献」最低限、組織への参加が維持される
- 「誘因<貢献」組織離脱(転職)
ICバランスについて、前回授業で初めて聴いた時は衝撃を受けました。
というのも、主張している内容自体は至ってシンプルな理屈であり、聴けば多くの人が「まあ、そうだよね」「そりゃそうだ」と納得すると思います。
しかし、日頃からこうして明確化された状態で理解している人は多くないのではないでしょうか(何となくとか、感覚的に理解している感じ)。
経営学の理論は実践の場でそのまま利用できる訳ではない事が多いと聞きますが、現実の問題を理解する上で役立つ理論は決して少なくないと感じます。
組織離脱(すなわち転職)を選択する従業員が多く生じるという企業組織を見ている機会がありましたが、現に「誘因<貢献」の状態が続いておりました。
しかし、ICバランスを考慮していれば未然に組織離脱を防げたように見えましたので、やはり経営学の理論から実例を分析してみる事は有意義であると考えます。
コミュニケーション
指示・命令が受容される過程について、伝統的管理論では「上位権限説」すなわち「上位者に権限の源泉が存在する」としたが、バーナードは「権限受容説」すなわち「上司による命令の権限は、部下に受容された時に成立する」とした(権限受容説は後述の「無関心圏」という概念が前提にある)。
「上位権限説」と「権限受容説」
以前、上司と部下達の間で対立が起きている職場を観察する機会がありましたが、(その事例においてはですが)上司側は「上位権限説」を前提として指示・命令を行うものの、部下側は「権限受容説」を前提にその指示・命令を受け取っていたように思います。
具体的には、上司は「上司である自分の指示・命令は絶対なので、部下達は問答無用に従うのが当然である」という認識を前提としており、一方の部下達は「また現場の状況を無視した非合理的な指示・命令を出してきたよ……従うフリをして適当にやっておこう/無視しよう」という態度でした。
すなわち、部下達に命令の権限を受容されない場合の事例だった訳です。
その結果はお察しの通り、上層から下層への指示・命令が上手く機能せず、組織としての機能発揮に支障をきたしておりました。
(9)意思決定過程の分析
バーナードは、前述の3つの組織過程に共通する基本的な過程を「意思決定過程」に求めた。
そして、意思決定過程は組織を存続させるために内部調整と外部環境への適応を図る行動として、個人的意思決定と組織的意思決定の2種類に分類した。
(10)管理の基本職能
管理の基本職能
- 共通目的の定式化(計画化:ファイヨールの管理過程論にも通じるものがある)
- 協働的活動(貢献)の確保(動機づけ:近代的モチベーションの理論に通じるものがある)
- 組織内コミュニケーションの維持(組織化・組織編成:複合公式組織の編成)
上記1〜3が経営・管理者の基本職能と位置付けられている。
この「管理の基本職能」の項目は、何気に春期スクーリングの経営管理論Ⅰで学習した「管理過程論」や「近代的モチベーション理論」が関連してきます。
個人的には、先生の説明を拝聴した時、点と点が線で繋がったような感覚になりました。
(11)管理過程とリーダーシップ
「協働の成功は、組織が適切なリーダーシップによって上手く運営されているかどうかに依存する」という話。
リーダーの資質として、バーナードは以下の2つの概念を提示した。
- 「道徳的創造性」無関心圏を拡大すること
- 「高い管理責任」識別能力、分析能力、工夫力、革新力などに加えて、道徳的創造能力が決定的に重要な要素である
無関心圏とは、上司から部下への命令について、それが正当な命令ならばすんなりと受け入れられる状態のこと。
3.サイモンの意思決定論
H.A.サイモンは経営学で唯一ノーベル賞を受賞した経営学者との事。
これまでの伝統的管理・組織論の「管理原則論」を批判し、管理を「物事を人々に成さしめること」と定義した。
組織メンバーが行為に先立つ目的と手段の選択過程である、意思決定過程に焦点を当てて分析することの必要性を説いた点が特徴。
核になる書籍は『経営行動』(1947年)とのこと。
(2)意思決定の前提
サイモンは意思決定の諸前提を以下の2つに分類した。
- 事実前提(過去の売上や実績など、過去の事実・業績を元に判断する)
- 価値前提(会社方針・ビジョンなど、やってみないと分からないもの。「あるべき姿」)
(3)「管理人」モデルという人間仮説
「管理人」は「かんりにん」ではなく「かんりじん」と読む。
サイモンは「経済人」仮説を批判し、制約された合理性(人間は限られた中でしか情報を収集できない)の概念に基づく意思決定論の理論的展開として管理人仮説を提唱した。
(4)サイモンの意思決定過程
サイモンは意思決定過程の諸要素を以下の通り分類した。
- 情報活動
- デザイン活動
- 選択活動
すなわち、情報収集を行い、結果予想しながら判断して優先順位を付け、どの代替案が最も良いかを選択する、という事。
第3回の授業はここまで。
第4回 近代的管理論Ⅲ(J.G.マーチ&サイモンおよびH.I.アンゾフ)
概要
2019年10月16日(水)6時限目
配布物:以下の通り。
- スライド資料『法政大通教「経営管理論Ⅱ」近代的管理論(3)』
3.サイモンの意思決定論(続き)
前回の続きから開始。
(5)目的と手段の連鎖
サイモンは組織の大目的を達成するための手段、その手段に付随する中目的とそれを達成するための手段、その手段に付随する小目的と——このような意思決定における「目的と手段の連鎖」という現象を唱えた。
トップ→ミドル→ロワー→現場、と組織階層の下層に向かうほど、経営理念→より具体的な(現場活動としての)目的とその解決手段に落とし込まれていく。
(7)組織における意思決定の影響
サイモンは組織影響力の理論展開について「限定された合理性」と「管理人モデル」を元に、意思決定の過程を理論化した。
4.マーチ&サイモンの組織論
(2)伝統的組織論・人間関係論の概観
これまでに見られた「伝統的組織論」「人間関係論(古典的モチベーション理論)」「意思決定論」における人間仮説を概観する。
- マシン・モデル(機械人)
受動的用具と仮定→テイラーの科学的管理法 - 動機モデル(情緒人)
動機的・態度的存在と仮定→人間関係論 - 意思決定モデル
意思決定者・問題解決者と仮定→経済人・管理人
(4)組織参加の意思決定
バーナード&サイモンの「組織均衡論」を援用して、前述のICバランスを説いた。
また、誘因が大きくなれば貢献も大きくなる(逆に、誘因が小さくなれば貢献も小さくなり、あるいは組織離脱=転職を選ぶ)とした。
感想
個人的な印象としては、バーナードもサイモンも数十年以上昔に提唱された理論でありながら、今日直面する問題の解決に役立ちそうな印象を受けました。
逆に、経営者やマネジャー層はこれぐらい知っていて当然というレベルであってほしいですね、というのが率直なところです(理論ばかり知っていれば良いという訳でもありませんが)。
予定では第4回でアンゾフを取り扱うとの事でしたが(アンゾフは今年のGWスクでアンゾフ・マトリクスを学習する際に触れたので楽しみだった)、スケジュールが若干遅れていてアンゾフは次回の授業にお預けとなってしまいました。