今回は、大河ドラマ『青天を衝け』第15話にて、主人公の渋沢栄一が西郷隆盛に振る舞われた鍋料理『豚鍋』の再現に挑戦しました。
放送直後からTwitterなどで「美味しそう」と話題になった『豚鍋』ですが、再現レシピを探しても中々見つかりませんでした。
そこで、情報の隙間を想像力で埋め合わせて、再現料理に挑戦してみました。
『豚鍋』再現レシピ作成の手がかり
劇中の手がかり
令和3年(2021年)5月23日放送の大河ドラマ『青天を衝け』第15話「篤太夫、薩摩潜入」終盤において、主人公の渋沢栄一(渋沢篤太夫)は西郷隆盛に『豚鍋』を振る舞われます。
このエピソードは実話であり、史料によると栄一は3回も隆盛と『豚鍋』を食べたそうです。
【#青天ナビ】
一橋家に仕えた篤太夫は、有志を訪ねまわり、諸藩の動きを探る活動を行っていました。その一人が #西郷吉之助。篤太夫はなぜか西郷に気に入られ、時には鹿児島名物の豚鍋を作るから一緒に食べないかと誘われたそう。豚鍋は三度ほどごちそうになった、と記録にあります。#青天を衝け
— 【公式】大河ドラマ「青天を衝け」 (@nhk_seiten) May 23, 2021
この『豚鍋』について、劇中で判明している情報は「薩摩の名物」という事と、後は料理のビジュアルのみです。
出典:NHK[2021]大河ドラマ『青天を衝け』第15話
放送で流れた映像から分かる情報を元に推測してみると、以下の通りです。
【材料(確定)】
- 豚薄切り肉(豚バラか?)
- 長ネギ
- 焼き豆腐
- 車麩
【材料(推測)】
- 白味噌(鍋つゆの色から推測)ベースの鍋つゆ
しかし、具材についてはほぼ確定的だと思いますが、肝心の鍋つゆがハッキリと分かりません。
鍋つゆの感じから、味噌ベースの味付けだとは推測されますが、これ以上は不明です。
そこで、調査により鍋つゆの味つけを推測していきたいと思います。
調査結果
『青天を衝け』第15話の放送直後から、Twitterには豚鍋のレシピを求める声がツイートされました。
誰か~!この薩摩の豚鍋のレシピ教えて~!#青天を衝け pic.twitter.com/J0vtyaNefm
— ミスター武士道 (@bushidoh_sb) May 25, 2021
これに対して、レシピそのものの情報は出てこないものの、手がかりとなる貴重な情報をツイートしてくれる方々がいらっしゃりました。
豚肉と、焼き豆腐?と車麩と青ネギが入って、白みそ仕立てなのかな?
レシピないかなと思って「鹿児島 豚鍋」で検索したけどしゃぶしゃぶととんこつ(味噌味の豚軟骨の煮込み)しか出てこなかった。#青天を衝け https://t.co/VSWv91JjpJ— Haruka McMahon (@regicat) May 23, 2021
青天を衝けにでてた豚鍋美味しそう(/--)/みてるけどスープは味噌ベースかな?具材は豚肉にネギに車ふかな?あと白いのなんかな?飯が無さそうやから切り餅かな?レシピでてないけど再現可能か?
— 前健(日常) (@Ezwg9d9tgDPWpOy) May 24, 2021
京都で食ってるので、「これ」は不明ですが。鹿児島で有れば、豚はバラと皮付きに見えます(韓国料理で出る名前が分からないですが、硬いやつです。)恐らく麦味噌、鹿児島醤油(甘い)と砂糖ふんだん、出汁カツオな甘めと思われます。坂本龍馬も最後は軍鶏鍋?でしたね😋
— Keith Kobayashi (@KobayashiKeith) May 25, 2021
これらの情報を踏まえると、やはり前掲の筆者推測は良い線をいっているようです。
ただ、筆者がWebサイト検索や文献調査を行なった限りでは、これだという豚鍋のレシピを発見することができませんでした。
(もし幕末の豚鍋レシピについて確度の高い情報源をご存知の方は、筆者Twitterまで情報提供を頂けると助かります!)
おまけ:『青天を衝け』幕末の豚食について(徳川慶喜のあだ名は「豚公方」だった!?)
また、レシピそのものからは少し話が逸れますが、ここで『青天を衝け』で豚鍋が登場した幕末当時の「豚肉を食べる」という食文化について、簡単にご紹介します。
そもそも豚肉を嗜好する日本人の記録は、江戸期に遡ることができる。当時すでに長崎出島の唐人屋敷在住の中国人相手に豚を売買する日本人も多くいたとされ、やがて供給が追い付かなくなった牛肉の代わりに、オランダ屋敷でも豚肉が見直されたという(富田・内海 一九八八)。さらに幕末には、薩摩の島津斉彬が献上した豚肉を徳川斉昭が好んで食べていたことも、双方がやり取りした書簡の内容から明らかである。また徳川つながりでは、一橋慶喜(後の十五代将軍徳川慶喜)も「豚公方」とあだ名がつくほどの豚肉好きであり、将軍後見職時代、何度も薩摩藩家老の小松帯刀に豚肉を所望したと伝えられている。
引用元:藤井弘章[2019]『日本の食文化4 魚と肉』(吉川弘文館)P.219
一橋慶喜は文久2年(1862年)7月6日に将軍後見職となりましたが、元治元年(1864年)3月25日には同職を辞して、禁裏御守衛総督に就任します。
『青天を衝け』第15話時点において、慶喜は既に禁裏御守衛総督となっていましたので、それ以前の時点で薩摩藩の小松帯刀に何度も豚肉を送らせて困らせていたという訳です。
草なぎ剛さん演じる慶喜は、劇中では飄々としてつかみ所のない人物として描かれていますが、その裏では豚肉を求めて「豚一様」(「豚肉がお好きな一橋様」の意)という陰口を言われていたと考えると、何とも人間臭い感じがして親しみを持てますね。
また『青天を衝け』の劇中では、薩摩藩の西郷隆盛が主人公・渋沢栄一に豚鍋を振る舞っていましたが、ここで薩摩と豚肉の関係についても少し触れておきます。
沖縄・九州の肉食
さて古くから豚肉食の民族が定着している地域に沖縄がある。
(中略)
さて豚肉と関わりの深い県に、鹿児島も挙げられよう。薩摩における豚肉食の歴史もまた十六世紀に遡ることができる。ポルトガルから来日したジョルジェ=アルバレス船長が記した『日本報告』によれば、すでに薩摩で、ブタ、ヒツジ、ニワトリが家畜として飼われていたことが記されている。薩摩へのブタの伝播にも、やはり琉球が関わっている。そのきっかけを、薩摩藩が奄美・琉球に出兵した「琉球征服」(一六〇九年)とする説がある。この動乱は薩摩の圧勝で終わり、凱旋の際、遠征中に出会ったブタを持ち帰ったのを機に、双方の交易船「豚の道」が形成されたと伝えられている。なお薩摩史の中でも、牛馬は役畜としてのイメージを持していた。しかし薩摩藩が狩猟を奨励したことも肉食定着の原因であったとされ、狩猟をベースに生活を営んでいた隼人以来、中央から遠く位置する薩摩では肉食の伝統が生き続けることができたと考えられている(宮路 一九九九)。引用元:藤井弘章[2019]『日本の食文化4 魚と肉』(吉川弘文館)P.230〜231
なるほど、西郷隆盛を含めて薩摩隼人たちの持つ、屈強さの源を垣間見たような気がします。
豚鍋をはじめとした様々な料理で豚肉を食べていたのだから、体も大きく、力強い武士が育つ土台が食文化の側面にもあったと考えられます。
『豚鍋』の再現レシピ
それでは、早速『豚鍋』を作りたいと思います。
『豚鍋』の材料(2~3人分)
【具材】
- 豚薄切り肉(今回は豚バラ肉を使用)……200g~300g
- 長ネギ……1本
- 木綿豆腐……1丁
- 車麩……4個
【調味料】
- 白味噌……100g
- 八丁味噌……10g
- 酒……大さじ3
- 砂糖……大さじ3
- だし汁……2カップ(400mL)
- ごま油……適量
『豚鍋』の作り方
【下ごしらえ】
1.木綿豆腐は食べやすい大きさに四角く切る。
2.長ネギは1㎝幅の斜め切りにする。
3.豚薄切り肉は食べやすい大きさの範囲で、なるべく大きく切る
【調理】
1.木綿豆腐をラップせずに、電子レンジで2〜3分加熱して水抜きする。
2.フライパンに適量のごま油を熱し、(1)の木綿豆腐を強めの中火で6面全てに焼き目を付けて、焼き豆腐を作る。
※市販の焼き豆腐を使用する際は(3)から始める。
3.白味噌と赤味噌を酒で溶いて、砂糖と混ぜ合わせて合わせ味噌を作る。
4.鍋に(3)で溶いた合わせ味噌、だし汁、豚肉、(2)の焼き豆腐、長ネギ、車麩を入れて火にかける(今回はIHクッキングヒーターを使用)。
5.豚肉に火が通り、かつ車麩が鍋つゆを吸って食べごろになるまで煮る。
6.味見して、味が濃ければだし汁で薄めて調整し、味が薄ければ味噌や砂糖で味を整える。
7.完成。
お酒
『青天を衝け』劇中で栄一と隆盛が飲んでいた酒ですが、黒千代香からお猪口に注いでいました。
黒千代香で用意されるお酒と言えば、そう、薩摩名物の焼酎です。
そこで今回は、芋焼酎を合わせることにしました。
『豚鍋』を食べてみた感想
甘辛い味噌味が脂の乗った豚バラ肉と相性抜群で、とても美味しい豚鍋でした。
また、焼き豆腐やネギも美味しく、甘辛味噌の鍋つゆが染み込んだ車麩も大変美味しかったです。
芋焼酎の霧島をロックで用意しましたが、スッキリした味わいが甘辛味噌味の豚鍋と相性バッチリで、ついつい飲みすぎてしまいました笑
ぜひ、また作って食べたい鍋料理に仕上がり、大変満足できる結果となりました。
※今回のレシピはWeb・文献共に豚鍋のレシピを探し出すことができませんでしたので、あくまでも筆者の創作レシピとなっております。ご了承ください。
参考資料
参考文献
藤井弘章[2019]『日本の食文化4 魚と肉』吉川弘文館
参考Webサイト